約束〜真実の想いのカケラ (50〜60分)
   

作者:羽純せら 



【登場人物紹介】


◇ユリア(18)♀ 

【性格・生い立ち】
フランソワーズ家の一人娘。
世間知らずのお嬢様。少し抜けているが純粋で素直で明るく何事にも一生懸命。
母親は幼いころに病死。

【対人関係】
キールを兄のように慕っている。
カインの事は意地悪で無愛想だけど何故かずっと気になっていた。でもその気持ちが何なのかは気付いていない。

◇カイン(21)♂ 

【性格・生い立ち】
ぶっきら棒で無愛想。
キールの父と下町の娼婦との子供。母親は幼いころに殺された。
母親の死後、キールの家に引き取られるもキールの母から虐待を受け。
周りからも虐げられるがそれに反発して育った。

【対人関係】
母親の死の黒幕がキールの母と知り、キール共々全てを憎んでいる。
唯一優しく同等に接してくれたユリアだけには心を許し、
心惹かれていくが素直に気持ちを告白出来ずにいた。

◇キール(25)♂

【性格・生い立ち】
ローゼンフェルド家嫡子。
落ち着いていて温和そうな物腰だが結構な野心家で傲慢。冷酷な面を持つ。
父はカインの母を愛し、母からは次期当主としてしか見てもらえず
両親からの愛情を受けることなく育った。
母がカインの母の暗殺を依頼したことを知っている。

【対人関係】
両親から愛憎を向けられるカインを憎んでいる。
唯一素直に自分を慕ってくれたユリアだけは心を許し、
子供の頃から妹のように可愛がり、唯一の心の安らぎだった。

※少年…キール(14歳ぐらい)カイン(11歳くらい)
※ユリア(幼)(7歳ぐらい)

【配役表】(2:1)


ユリア♀
カイン♂
キール♂

※『』で区切られたものはモノローグまたは記憶の中の出来事です。




【1】プロローグ

ユリア   『欠け落ちなくしてしまった……私の記憶…想いのカケラ

       探して…求めて…その先にあるのは…幸せな夢?それとも残酷な現実……?』

【記憶の断片】

ユリア(幼)『うう…ひっく……』

ユリア   『声が聞こえる』

ユリア(幼)『ううっ…ひっく……お母さまぁ』

ユリア   『あれは…小さい頃の…私?』

キール少年 『泣かないで……ユリア…僕の天使…僕が…代わりに傍にいるから…』

ユリア(幼)『本当…ずっと…そばにいてくれる…?』

少年    『(優しく微笑んで)うん…約束…これからはずっと…君のことは…僕が守るから』

ユリア(幼)『約束ね…!(笑顔)』


ユリア   『…あなたは…誰…?顔が…ぼやけてはっきり見えない…

       あなたは…誰なの…?』


カイン少年 『おまえも…母さんがいないのか…?』

ユリア(幼) 『(泣きながら)おかあさま…いなくなっちゃった…ユリアを置いて行っちゃったの…』

カイン少年 『へぇ…じゃあ、俺と一緒だな』

ユリア(幼) 『…いっしょ?』

カイン少年 『ああ。いっしょだ…(ぶっきら棒にそっぽを向いて)だから俺が傍に居てやるから…もう泣くな…』

ユリア   『(嬉しそうに微笑んで)…うん!約束ね…!』


【2】〜現在:薄暗い粗末な山小屋の中。ベットに横たわっているユリア。そのすぐ傍に心配そうに付き添っている青年カイン。


ユリア   「んっ…」(ぴくりとまぶたが動く)

カイン   「ユリア!!」

ユリア   「!!」(目が覚める)

カイン   「…ユリア…もう目を覚まさないかと…良かった!!(抱きしめる)」

ユリア   「(戸惑い)!? え…」

      『……この人…誰…?』

カイン   「(心配そうに)大丈夫か?どこか痛い所はないか…?」

ユリア   「…?ここは…痛っ!」

カイン   「(慌てて)無理に起き上がるな…お前、崖から落ちた後、ずっと眠ってたんだぞ」

ユリア   「(ぼーっとして)崖…?あの…私…(辺りを見回す)」

カイン   「ユリア…?」

ユリア   「…ユリア…?(誰のこと?)」

カイン   「…?お前どうしたんだ…」 

ユリア   「あ、あの…(恐る恐る)あなたは誰ですか…?私は…」

カイン   「…え?」


【間】しばらく時間が経過している 机を挟んで向かい合わせに座っている二人


カイン   「…それで?お前本当に何も覚えてないのか?」

ユリア   「…はい…あ、あの、私どうして」

カイン   「どうしてって…あんな事があったのに何も覚えてないのか…(驚いたように小さく呟く)」

ユリア   「え…?」

カイン   「いや、何でもない…」

ユリア   「…?」

カイン   「ああ…どこか痛いとこはないか?」

ユリア   「…大丈夫です。」

カイン   「そうか…(しばらく思案した後、立ち上がり持ってきたスープを差し出す)

       取り合えず何も食べてなかったから腹減ってるだろ?大したもんないけど、食えよ」

ユリア   「あ…ありがとう…ごめんなさい」

カイン   「いちいち敬語使うなよ調子が狂う…」

ユリア   「ご、ごめんなさい…」

カイン   「そんな不安そうな顔するな。…大丈夫だ…俺がなんとかしてやるから」

ユリア   「ありがとう…」(ほっとしたように嬉しそうに微笑む)

カイン   「(そっぽ向いて照れたのを隠しつつ)別に…お前の面倒みるのなんて慣れてる…気にするな」

ユリア   「……あ、あの」

ユリア   「あなたは…私の…?」

カイン   「…お前は…」(言いかけて止める)

ユリア   「…?あの…」

カイン   「…(しばらく考え込むように黙った後、思い切ったように口を開く)お前は…俺の……恋人だよ」


【3】数週後、山小屋で二人暮らしている。カインから自分達は恋人同士で、ここで二人で暮らしていたと説明されている。


ユリア   『記憶をなくすという衝撃の出来事から数週間が過ぎ、私はカインと一緒に、この山小屋で暮らしていた。

       カインとの事は覚えてはいなかったけれど、どこか懐かしさを感じ、

       最初は戸惑っていた私も、段々と、この状況に慣れていった。
       
       カインは無愛想でぶっきら棒だったけれど、でもとても優しかった。』  

【間】

(だいぶ打ち解けている感じ)

カイン   「ただいまー」

ユリア   「(笑顔で駆け寄る)あ、カインー!おかえりなさい〜!」

カイン   「(勢い良く駆け寄られ少し面食らって)お前そんな動き回って大丈夫なのか?」

ユリア   「うん!もうだいぶ良いの!あのねカインが仕事に行っている間に、私も何か出来ないかと思って

       晩御飯作ってみたの!いつもカインに作ってもらってばかりじゃ悪いもの」

カイン   「お前…料理なんか出来るのか?」

ユリア   「失礼ね!!やれば出来るわよ…私だって」

カイン   「へぇ〜…じゃあ、見せてみろよ(鍋を開けると黒こげの物体が)…これ…何だ?」

ユリア   「…し、シチュー…」

カイン   「へぇ…(からかうように見つめる)」

ユリア   「い、いいわよ!!嫌なら食べなくて!!どうせ私はカインと違って不器用よー!」

カイン   「(笑って)いいからよこせよ。食べてやるから」

      (カイン黒焦げの物体を口に運ぶ)

ユリア   「…味…どう?」

カイン   「…聞きたいか?(にやりと笑って)」

ユリア   「い…良いです!ごめんなさい!」

カイン   「(笑って)いいよ、食事は今まで通り俺が…」

ユリア   「(慌てて)だめ!!私諦めない!!絶対美味しい料理作ってみせるから」

カイン   「(意地悪く笑いながら)そっか…じゃあ期待せずに待ってる」

ユリア   「もう!!カインの意地悪!」

カイン   「(すっと真面目な顔になり)…なぁ、俺が居ない間何か変わった事はなかったか?」

ユリア   「え?いつもそれ聞くのね、別に何もなかったわよ」

カイン   「そっか…(ほっとしたように)ならいいんんだ」

ユリア   「もう〜カインは心配性なんだから(笑う)」

カイン   「…(複雑そうな表情で微笑む)」


      【夜〜ユリアが眠っているのを見て】


カイン   「ユリア…お前は記憶が戻ったらどうするんだろうな…怒るかな…

       それとも…泣くのかな…ごめんな…

       でも俺にはもう…こうするしかないんだ…こうするしか…」


【間】〜数日後

カイン   「ただいま〜」

ユリア   「おかえりなさい〜!!」(駆け寄る)

カイン   「(出迎えを嬉しく思いつつからかう)…なんだよお前、そんなに慌てて走ってきて…また転ぶぞ」

ユリア   「な、なによ!!もう怪我もすっかり治ったし!転んだりなんかしないわ!(むぅっと頬を膨らませる)」

カイン   「そういって昨日、何にもない所で派手にすっ転んだのはどこの誰だよ?(意地悪く笑いながらからかう)」

ユリア   「…うぅっ!な、なによーカインの意地悪ーーー!!(ポカポカと胸を叩く)」

カイン   「ほらほら〜、腹減ったから早く飯にしてくれよ」

ユリア   「もう…!でも今日は、結構うまく出来たんだから!失敗しなかったんだからね!」

カイン   「へぇ〜それは楽しみだな」


【間】  (食事終わった後)

カイン   「ごちそうさま〜」

ユリア   「ね…ねぇどうだった?」

カイン   「…まぁまぁかな」

ユリア   「むー!!」

カイン   「嘘だよ…うまかった(微笑む)」

ユリア   「でしょー!!今日のは自信があったの」

カイン   「頑張ったな」(笑ってぽんっと頭をこづく)

ユリア   「ふふ(珍しく褒められて嬉しそうに微笑み)…良かったぁ!私も何か役に立つ事が出来て!」

カイン   「何だよ…別にいいんだよお前はそのままで

      (疲れたように息を吐きイスにもたれる)ふぅ〜…」

ユリア   「大丈夫?疲れた?今日も遅かったもんね」

カイン   「ああ…(急に真剣な顔になり)なぁ、俺が居ない間…何か変わったことは無かったか?」

ユリア   「え…?またそれ?…今日も特に何もないよーいつもと変わりなし!」

カイン   「(ほっとしたように)そっか、ならいい…」

ユリア   「(笑いながら)ほんとカインはいつまで経っても心配性だね」

カイン   「…そうだな(苦笑)」

      (ユリアしばらく黙っていたがやがて決心したように)

ユリア   「ねぇカイン!あ、あのね…私もう身体も良くなったし、

       そろそろ外に出たほうが、記憶も戻るんじゃないかって思うんだけど…」

カイン   「(焦って思わず叫ぶ)そんな事しなくていい!」

ユリア   「(びくっとして)!」

カイン   「(我に返り)…悪い…どなったりして…ごめん、ちょっと疲れてて…」

ユリア   「ううん…私こそごめんなさい」

カイン   「(取り繕うように明るく)もし何か居るものがあるんなら俺が用意するから、お前はここに居れば良い」

ユリア   「……うん(少ししょんぼりして俯く)」

カイン   「…そんな顔するな(頭を小突いて)…今度俺がどこかつれてってやるよ」

ユリア   「本当!?(嬉しそうに顔を上げて満面の笑顔)」

カイン   「ああ…(少し気まずそうに微笑み返す)」


【間】〜時間経過、深夜。狭い部屋に粗末なベットが並んでいてカインは隣で眠っている。
    ユリアは眠れずにそっとベットを抜け出し窓から外を見上げる。

SE:虫の声〜山小屋から見える空には満天の星空が広がっている

ユリア  「…星が綺麗……(満天の星空を見上げて呟く)

      はぁ…私って、カインのお荷物だよね…」

     『私がここに来て数週間が経った。けれど一向に私の記憶は戻らない…

      そして何より、ここから一歩も外に出たことがなかった…

      何故かカインは、私が外に出ようとすると、決まって強く私を引き止めるからだ…

      けれど、ずっと家の中にいるのは正直退屈だった…

      それにいくら恋人だといっても、何より申し訳ない……

      …どうして外に出ちゃ駄目なんだろう…
 
 カインはすごく優しくしてくれる…でも、どこかカインの行動は不自然だった。

      失ってしまった私の記憶…何か…大切な事を忘れてる気がする』


     (ユリアが眠った後に、カインが目を開き起き上がる。愛しげにそっとユリアの頬に触れて)

カイン  「…絶対に…こいつを連れて行かせたりしない…あいつには…渡さない…」(眠っているユリアを見つめ呟く)


【間】翌朝、昨日の事があって、お互いどこか少しぎこちない。カイン顔色が悪い。


ユリア  「おはよう〜…朝ご飯出来てるよ」

カイン  「…うん…(咳き込む)」

ユリア  「…カイン大丈夫?何だかすごく具合悪そう」

カイン  「ん、大丈夫だ…(少しぼうっとしている)」

ユリア  「でも…カインいつも朝早くから夜遅くまで働いて…私のせいなんでしょう?」

カイン  「ちがう…気にするな」

ユリア  「やっぱり私も外に出て働く!!カインだけに辛い思いさせたくない!」

カイン  「いいから!!お前は黙ってここにいろ!!(イライラした感じで)」

ユリア  「(びくっ)!?」

カイン  「…ごめん」(思わずきつい物言いになってしまった事にはっとして)

ユリア  「…カインやっぱり変だよ!!どうしてなの!?」

カイン  「ユリア…(苦しげに)」

ユリア  「お願い教えて!!」(心配そうに必死に食い下がる)

カイン  「…ユリア…俺は…(苦しげに呟きユリアを抱きしめる)…っ!」

ユリア  「!?カイン…?どうしたの? んっ…苦しいっ」(強く抱きしめられて苦しそうに)

カイン  「ごめん……言えない…言ったらお前は…」

ユリア  「え…?」

カイン  「ユリア…ここにいてくれ…俺の…傍…に…もう…俺にはお前しか…っ」(急にめまいがしてその場に倒れる)」

ユリア  「!!カイン!? カイン!!しっかりして……!!

      すごい熱…っ!!(身体に触れると燃えるように熱い。慌てて額押さえ)

      どうしよう…どうしたら…(しばらく考えた後カインをベットに寝かせる)

      ……待っててカイン…!」(決心したように外へと駆け出す)」


【4】(時間経過、3日後 ベットで眠っているカイン。ユリア傍についている)


カイン  「…んっ…やめろ…母さん…母さん……!!」(うわごとのように呟いている)

      …キ…ル…俺は…おまえを…許さない…っ」

ユリア  「…カイン?どうしたの苦しいの(心配そうに顔を近づける)」

カイン  「んっ…やめろ…ユリア…逃げろっ…ユリア…」

ユリア  「え?カイン?? 私はここに居るわ!カインっ!(思わず手を握る)」

カイン  「!?(驚いて目を開ける)」

ユリア  「カイン!!目が覚めた…?良かったぁ…(ほっとしたように微笑む)」

カイン  「俺…どうして…?」

ユリア  「高熱出して倒れちゃったの…3日もずっと眠りっぱなしで…さっきもずっとうなされて…

      もし目が覚めなかったらどうしようって……良かった、カインが目覚めてくれて…(瞳を潤ませ)」

カイン  「目が赤い…(そっと頬に手を当て)お前…ずっと俺の看病してたのか…?」

ユリア  「当り前だよ!だってカインは私の恋人なんでしょ?(微笑む)」

カイン  「(純粋な笑顔に少しつらそうに瞳をそらす)…そう…だな」

ユリア  「はい、これ私が作ったの。食べて!(おかゆをスプーンですくって差し出す)」

カイン  「(少し照れたように)な…別に、自分で食べれる」

ユリア  「良いから、ほら、あ〜んするの!(有無を言わさないようにずいっと身体を寄せる)」

カイン  「…お前、俺が動けないと思って…」

ユリア  「ほら〜はやくー」

カイン  「…くそっ…(観念したようにしぶしぶと口を開ける)」

ユリア  「ふふふ(嬉しそうに微笑む)」

カイン  「…ったく、お前と居ると…調子が狂う…」

ユリア  「……カイン(おかゆを置いて不意にカインを抱きしめ)」

カイン  「(抱きしめられびくっとする)!?…なっ…何する!」

ユリア  「安心したの…(抱きしめたまま瞳を閉じて)

      それからこうして、カインを抱きしめて…カインが生きてるってことを実感してるの」

カイン  「……ユリア(抱きしめ返そうとするが、苦しげにこぶしをきつく握る)…っ!」


【間】カインがおかゆを食べ終わったのを見て、ユリアが引き出しから薬を出す。


ユリア  「全部食べれたのね、良かった!じゃあ、次は、はい、お薬飲んで(にこにこしながら薬を差し出す)」

カイン  「!?これ…どうしたんだ!」(薬を見た途端、穏やかだったカインの表情が固まる)

ユリア  「え…?」

カイン  「この薬どうしたんだよ!!」

ユリア  「あ…えっと森の近くに住んでる人に、事情を話して譲ってもらったの」

カイン  「!!(顔色が変わる)…外に出たのか!!」

ユリア  「え…?だ、だって…カイン凄く苦しそうで…私」

カイン  「馬鹿やろう!!」

ユリア  「!!」

カイン  「俺のことなんてどうだって良い!!あれほど外に出るなって行っただろう!!」

ユリア  「…だって…だって…私…カインが死んじゃうかと思って……

      苦しんでるカインを放っておけるはずないじゃない!!」(泣きそうになりながら)

カイン  「…(はっと我に返り)ごめん…怒鳴ったりして…」

ユリア  「カイン……」

カイン  「(苦しそうに)ごめん…少しだけ一人にしてくれないか…」

ユリア  「…分かった…何かあったらいって…でも、お薬だけは…飲んでね…お願い…」

カイン  「…分かった」(気まずそうに)

     (扉を閉めて部屋から出て行く)

ユリア  『どうして私は外に出たらいけないの…?…カインは私に何か隠してるの?』
 
     (ユリアが出て行ったほうを見つめ)
     
カイン  「ユリア…ごめん…(ぎゅっと拳を握って)

      (自嘲ぎみに微笑んで)どうして俺はこうなんだろうな…あいつを守りたいのに…傷つけてしまう…

      俺の大事な人は皆…どうして…(辛そうに瞳を閉じて)

      俺が…あいつを諦めれば…あいつは幸せになれるのかもしれない…

      でも…離したくない…失いたくない…!俺にはもう…ユリアだけなんだ…ユリアしか要らない…

      …絶対に守ってみせる…母さんみたいに不幸にはさせない…俺が…ユリアを幸せにしてみせる…!」

      


【5】翌日〜薬は飲んだものの、カインの体調はまだ良くなっていない。
   それでもユリアとの生活費を稼ぐ為に仕事に行こうとする。


カイン  「じゃあ行ってくる…」

ユリア  「(心配そうに)もう大丈夫なの…?」

カイン  「ああ…」

ユリア  「でも…まだ顔色が…やっぱり今日は…」

カイン  「(さえぎるように思わず少し強く叫んでしまう)大丈夫だから!」

ユリア  「!(びくっ)」

カイン  「…ごめん(気まずそうに)行ってくる」

ユリア  「いってらっしゃい…

      はぁ…(カインの姿が見えなくなるとため息をついて壁にもたれる)」
   
     『昨日の事があってから、何だかカインの様子が変だ

      どうしてだろう…何かに怯えているような…そんな気がする』

     「…私…どうしたらいいんだろう。」


SE:扉を叩く音

ユリア  「…カイン?…どうしたの?さっき出ていったばかりなのに、忘れ物?」

     (ドアを開けると、そこには見たことのない青年が立っていた)
     
キール  「(信じられないように瞳を見開き)ゆ、ユリア…!?…生きて…いたのか!!

      この近くの村人から、君に良く似た娘が居るって聞いて……」

ユリア  「(戸惑う)…あ…の…」

キール  「無事で良かった…!!」(強く抱きしめる)

ユリア  「(うろたえて)え…?あなたは誰…?」

キール  「(様子がおかしい事に気付き、訝しげに見つめる)…ユリア?」

ユリア  「あ…あの…あなたは…」

キール  「どうしたんだ…?僕の事が分からないのか?」

ユリア  「私…あの…」

キール  「とにかく早く帰ろう…君のお父様も心配している」

ユリア  「…お父様?」

キール  「そうだよ…さぁこんな所に居ないで早く帰ろう!事情は後で聞くよ」

ユリア  「でも!カインが…」(連れて行かれそうになって咄嗟に叫ぶ)

キール  「カイン…?(何かを悟ったように)…そうかあいつも生きて…(小さく呟く)

ユリア  「え…?(聞き取れず)」

キール  「君はカインに騙されてるんだ…あいつから何を聞いたかは知らないが、

      あいつは君が思っているようなやつじゃない」

ユリア  「カインはそんな人じゃない!記憶を無くして倒れていた私を助けてくれたの…!」

キール  「!?…記憶を…」

ユリア  「私崖から落ちてしまったみたいで、それまでの記憶がないの…でもカインが私を介抱して助けてくれたの!」

キール  「そうか…それで君は…」

ユリア  「それにカインは私の…」

キール  「(苛立ったように)君は僕の婚約者だ」

ユリア  「…え?(驚いて動きが止まる)」

キール  「君は僕の婚約者だ…ずっと君を探していた…そしてやっと見つけた!

      君が居なくなって…どんなに僕が心配したか分かるか?」

     (有無を言わさないように)ユリア…僕と一緒に帰ろう」

ユリア  「!!」


【間】ユリア連れていかれた後、夕暮れ
   カインが家に帰ってくる。顔色が良くないまま。さらに酷くなっている


カイン  「ただいま…」

【間】(いつものように出迎えがないのを不思議に思い、奥の部屋の扉をノックする)

カイン  「ユリア…今朝はごめん…せっかく俺の為にしてくれたことなのに

     (返事がないのを不審に思い)

      ユリア…?寝てるのか?(扉を開けるが部屋はもぬけの殻、誰も居ない)

      !?ユリア…何処に行ったんだ…!

     (床に落ちている紋章入りのカフスボタンを見つける)ん?ボタン?…!!…この紋章は…まさか!」



【6】(場面転換、立派な屋敷 キールの屋敷)


キール  「…今日はこの部屋を使うといい。

 疲れただろう…もう遅いし今日はここでゆっくり休んで、明日君の家に送っていくよ。」

ユリア  「…あの」

キール  「ん?なんだい…?」

ユリア  「あの…カインは…えっと」

キール  「あいつは…僕の弟だ…(苦々しげに)」

ユリア  「え…?」

キール  「でもあいつは僕達とは違う。君は由緒正しいフランソワーズ家の一人娘、そして僕もローゼンフェルド家の嫡子。

      君と僕は幼い頃から決められた婚約者同士だった。だけど、カイン、あいつは下町の下賤な娼婦の子だ…」 

ユリア  「!?」

キール  「母親が死んで、仕方なく引き取りはしたが、僕達とはそもそも住む世界が違う

      …今回の事もきっと僕へのあてつけだろう。

      それに怪我をした君の記憶が無い事を利用して、君に嘘を吹き込んで連れ去った。

      ……あんなやつの事は、もう忘れた方がいい…」

ユリア  「…嘘」

キール  「僕が君に嘘をついた事があったかい…?ユリア僕の天使…」

ユリア  「!?(聞き覚えのある呼び方にびくっとして)」

キール  「本当に無事で良かった…(そっと頬に手を触れ、優しい瞳で見つめる)…どこか痛いところはないかい?」

ユリア  「…」

キール  「大丈夫、これからはずっと…僕が君の傍にいるから…」

ユリア  『この言葉…!ずっと昔にも聞いたことがある気がする…』

キール  「…約束しただろう…これからはずっと…君のことは僕が守るから」

ユリア  「!!(聞き覚えのある言葉にはっとして)」


【間】(深夜、部屋で一人で)


ユリア  『…ほんとに…本当にカインは…嘘をついてたの…?

      今までの事は…全部嘘だったの…?

      …教えて…あなたは私を騙していたの…?

      分からない…(泣く)』


【間】次の日

SE:ノックをした後部屋に入ってくる

キール  「ユリア…おはよう〜起きてるかい?」

ユリア  「…おはようございます(おずおずと)」

キール  「…どうしたんだい?ほとんど朝食食べていないじゃないか」(テーブルに置かれた朝食を見つめ)

ユリア  「食欲がなくて…」

キール  「…目が赤い…泣いていたの…?」

ユリア  「…(うつむく)」

      (しばらく様子を伺うように見つめていたが)

キール  「ユリア…お腹が空いてなくても少しでも食べなきゃ駄目だ…

      (そういって隣のイスに腰をかけフォークで食べ物を刺し顔の前に)
  
      ほら、デザートだけでも食べていい子だから…」

ユリア  「…あ、あの…」

キール  「ほら、口をあけて?君が大好きだった苺のタルトだよ。昔から好きだっただろう?」

ユリア  「(戸惑って)あ、えっと…(恥ずかしくなってうつむく)じ、自分で食べれます」

キール  「(くすっと笑って)そう言えば君はこうして僕に食べさせてもらうのが好きだったよね」

ユリア  「え…!?(驚いたように)」

キール  「いつも君は僕の後をついてきて…甘えん坊のお姫様だった(悪戯っぽく微笑む)」

ユリア  「(見つめられて恥ずかしくなって頬を染めて)そ、そんな…私…」

キール  「(昔を懐かしむように)…甘えん坊で…泣き虫な僕の天使…(そっと頭を撫ぜる)

      君が無事で本当に良かった…(微笑む)」

ユリア  『この人と居ると…なんだかとっても心が安らぐ…懐かしいような…温かい気持ちになる…』

キール  「食事が終わったら君を家まで送って行くよ」

ユリア  「…はい」


【7】  1週間後〜ユリアは無事に屋敷に戻り、キールは毎日足を運んでいる


ユリア  『屋敷に戻って1週間が経った。お父様は私の無事を確認すると泣きながら私を抱きしめた。

      どうやら私は、死んだものと思われていたらしい。 

      そして屋敷に戻ってからもあの人は、毎日のように私の元に足を運んでくれる。

      あの人の名前はキールと言って、私の本当の恋人で婚約者らしい。

      キールお兄様と一緒に居ると…安心できた。お優しいキールお兄様…』

【間】

SE:ドアをノックする音

キール  「おはよう〜!ユリア」

ユリア  「あ、キールお兄様!いらっしゃい!」(嬉しそうに微笑む)

キール  「だいぶ元気になったみたいだね(微笑んで)今日は君と一緒に出かけたい場所があるんだ」

(場面転換〜墓)

ユリア  「…ここは?」

キール  「君のお母様のお墓だ…毎年命日には君と一緒にここを訪れていたんだよ。

      はい、君のお母様が好きだった百合の花だ。」(花を渡す)

ユリア  「綺麗…(花を受け取って)…私…お母様の事まで忘れて……

      (俯き)…どうして…どうして私、何も思い出せないの!(泣く)」

キール  「ユリア…大丈夫だ。君が忘れても僕が覚えてる。大丈夫だよ(頭を撫ぜる)」

ユリア  「キールお兄様…私何も思い出せない…苦しいの…キールお兄様の事も…お母様の事も…何もかも…!」

キール  「……ユリア無理に思い出さなくていいんだ…過去の事なんて忘れて

      これからまた新しく築いていけば良いじゃないか。

      これからは僕がずっと君の傍にいる。(抱きしめる)だから安心して、君は僕の傍に居れば良いんだ」

ユリア  「キールお兄様…」

キール  「ほら、泣いてばかりだとお母様が心配されるよ。可愛い顔が台無しだ(悪戯っぽく微笑む)」

ユリア  「…もう…キールお兄様ったら(泣き笑い)」


【間】〜しばらく経って、ユリア墓に花を供え手を合わせている


キール  「…ユリア」(後ろからじっと見つめていたが、決心したように呼びかける)

ユリア  「(振り返る)キールお兄様…?」

キール  「…今日は君に大事な話がある」

ユリア  「なぁに?」

     (そっと小さな箱を取り出し箱を開けるとそこには指輪が)
キール  「ユリア…これを君に…」

ユリア  「…これは…?」

キール  「結婚指輪だよ…君に渡すはずだった…。」

ユリア  「え…!?(驚いて目を見開く)」

キール  「記憶を失ったままの君には、なかなか言い出せないでいたが…

      今日ここで、君のお母様の前で言いたかったんだ。

      (まっすぐに見つめて)僕は君を愛してる…

      それは生涯変わることはない…ユリア…君だけを愛してる。」

ユリア  「…キール…お兄様…」

キール  「…愛してる」(抱きしめキスしようとする)

ユリア  「やっ!!カイン!!」(思わず突き飛ばす)

キール  「!?」

ユリア  「あ…わ、わたし…」(自分でもびっくりしてうろたえる)

キール  「…カインは…君の恋人でもなんでもない」

ユリア  「……」

キール  「どうして君は…(表情が険しくなる)」

ユリア  「…ご、ごめんなさい…(キールの表情に少し怖くなって)」

キール  「君の恋人は…"僕だ"(強く抱き締める)君は僕のものだ…!」

ユリア  「キールお兄様…」

キール  「ここからは僕の屋敷の方が近い。今日はもう遅いから泊まって行くと良い…」


【場面転換】 〜キールの屋敷(夜)

キール  「ごめん、今日はずいぶん遅くまでつき合わせてしまったね。」

ユリア  「ううん…ありがとうキールお兄様」

キール  「この部屋は自由に使ってくれて構わないから、明日送って行くよ

      僕は向かいの部屋に居るから何かあったら呼んでくれ。

      …ユリア(真剣な瞳でユリアを見つめる)」

ユリア  「…(見つめられてどうして良いのか分からず俯く)」

キール  「ユリア…今日僕が言った事、ゆっくり考えてみて欲しい…。じゃあ、お休み。また明日」

ユリア  「はい…お休みなさい。キールお兄様…」


【8】 〜深夜、部屋を抜け出して中庭へ


ユリア  「はぁ…眠れない。少しだけ外の空気を吸いに行こう…」


     (中庭に移動して)


ユリア  「風が心地いい…(中庭を歩きつつ)」

     『…どうしてだろう…何だか心が騒いで落ち着かない…

      お兄様はお優しいからああ言って下さったけど、でも…それじゃあ駄目な気がする。

      何だか忘れちゃいけない大事な事を忘れている気がする…』

      (立ち止まり星空を見上げてため息をつく)「はぁ…」

     『それに…どうして私…あそこでカインの名前を呼んでしまったんだろう…

      キールお兄様はあんなに私の事を想って、大切にして下さっているのに

      …どうしてカインの事ばかり思い浮かぶんだろう…カインは私の事を騙していた酷い人…なのに…

      カインの事を思い出すだけで胸が苦しい…どうして私はまだカインの事が忘れられないの…』



      (ふいに中庭の奥から声が聞こえてくる)


キール  「何しに来た!」

ユリア  「!?…え?」(声が聞こえて足を止める)

     (中庭の植え込みの奥の方から声が聞こえ、思わず隠れて覗くとそこにはキールと全身を黒ずくめの男がなにやら話している)

ユリア  「あれは…キールお兄様と…誰…?」

キール  「…ここにはもう来るなと行っただろう」(小さくぼそぼそと)

ユリア  「…?何を話しているんだろう。ここからだとはっきり声が聞こえない…」(近づいていく)

キール  「…口止め料だと…?結局失敗していたくせに何を言っているんだ…

      …はまだ生きているじゃないか…それに…まで巻き込んでおいて」

ユリア  「え…?」

キール  「分かった…もういい!さっさと金を持って消えろ!そして二度と姿を現すな!!(イライラした様子で)」

      黒ずくめの男がキールから金を受け取り、植え込みから出てきた時にユリアとぶつかる
      ぶつかった時に男の頬に大きな傷があるのを見る

ユリア  「!!」(目を見開く)

キール  「!…(ユリアの姿を見つけ驚くが冷静を装い)

      ユリア…どうしてこんな所に」

ユリア  「…あ…ね、眠れなくて…あ、あのさっきの人は…?」

キール  「ああ、あの男は何でもない…僕が今やっている事業でやとっている者だ」

ユリア  「私…あの人の事どこかで見たことがある気が…」

キール  「気のせいだよ…あの男は君が知ってるような人間じゃない…

      ほら、もう遅いから部屋に帰ってお休み(肩を抱いて連れて行こうとする)」

ユリア  「でも…あの頬の傷…どこかで…」

     (その瞬間記憶がフラッシュバックする)

カイン  『ユリアー!!逃げろー!ユリアーー!!』

ユリア  『いやーーやめてー!!』

ユリア  「!!(目を見開きガクガクと崩れ落ちる)

      (恐ろしいものを見たかのように)あ…あの人…いやっ…いやああー!!」

キール  「どうしたんだユリア!!」

ユリア  「あの人…私達を殺そうとした…(震える声で呟く)」

キール  「!!」(ギクリと身体が一瞬こわばる)

キール  「ユリア…何を言っているんだ…君は疲れてるんだ…ほら早く部屋に帰って休むといい

      さぁ…いい子だから…(肩を抱こうとする)」

ユリア  「いや!!(振り払う)…ど、どうして…私達を殺そうとした人が…キールお兄様と…会っているの?(震えながら)」

キール  「…」

ユリア  「どうして…!!」

キール  『カインはまだ生きているじゃないか、それにユリアまで巻き込んでおいて…』

ユリア  「!!(さっきの言葉で察してしまう、その瞬間再び記憶がフラッシュバック)
      
      (黒づくめの男に崖に追い詰められて今にも殺されそうになっている場面が頭の中に浮かぶ)あ・・・あぁ・・・ 
   
      いやあああーーー!!(悲鳴を上げて気を失う)」

キール  「ユリア!!」(気を失ったユリアを抱きとめる)


【間】気を失ったユリア、ベットで寝かされている。ベッドの脇にはキールが心配そうに付き添っている。

     夢の中〜回想(再び記憶を失った時の記憶を夢で見ている)


カイン  『こんな所に呼び出して何だよ…』

ユリア  『ねぇカイン最近私を避けてるでしょ』

カイン  『…気のせいだろ』

ユリア  『嘘!絶対今までと違うもの』

カイン  『…お前はキールと結婚するんだろ?だったらもう今までのようには出来ない…』

ユリア  『そんな…どうして!私達ずっと、幼い頃から何でも話せる友達だったじゃない!』

カイン  『友達ね…(苦笑)良かったじゃないか憧れのキールお兄様と結婚できて

      ずっと好きだったんだろ。昔からキールお兄様キールお兄様ってうるさかったもんな

      これからはキールがずっと傍に居てくれるよ』

ユリア  『…どうして…そんな意地悪いうの?カインは私の事嫌いなの…(泣きそうになって)』

カイン  『っ!』

ユリア  『もういい!!私キールお兄様の所にいくわ!!カインなんかもう知らない!!』

カイン  『ユリア!!(弾かれたように走っていこうとするユリアの手を掴んで引き寄せる)…行くな!!』

ユリア  『!?』

カイン  『あんなやつの所にいくな…(抱きしめて押し殺すように呟く)』

ユリア  『カイン…(抱き締められて思わず赤くなる)』

カイン  『諦めようと思った…お前が幸せになるならって…だけど、あいつは!!』

ユリア  『え…?』

カイン  『(はっとしたように振り返り)!?誰だ!!そこに居るのは』

     (黒ずくめの男が出てくる)

カイン  『!?なんだお前…』

     (男無言で切りかかってくる)

ユリア  『きゃああ!!カイン!!』

カイン  『ユリア逃げろ!!』

ユリア  『やめ!!やめてぇーー!!』

     (襲われた時の夢を見て、うわごとのように呟く)

ユリア  「やめ…やめて…(うわごとのように呟く)」

キール  「ユリア…(苦しげな表情でユリアの手を握る)」

ユリア  「んっ…(瞳を開ける)」

キール  「ユリア…目が覚めたかい…?」

ユリア  「あ…あぁ!(キールを見て震える)」

キール  「(その様子を見て寂しそうに微笑む)…どうやら思い出して…しまったんだね。

      君には、忘れたままで居て欲しかった…。」

ユリア  「…どうしてこんなこと…」

キール  「カインが憎かったから」

ユリア  「…どうして!…キールお兄様がカインを…?」

キール  「(自嘲気味に笑って)…僕が、欲しいもの全てを手にしているように見えるかい?」

ユリア  「え…?」

キール  「僕は確かにローゼンフェルド家の次期当主として、今まであらゆるものを与えられてきたけれど

      どんなに望んでも一番欲しかったものは何も手に入らなかった…

      父はカインの母に入れ込み、母は僕の事を次期当主としてしか見ていなかった

      でも僕は母の期待に答えようと常に完璧であろうとした。」

ユリア  「……」

キール  「いつも気が抜けない日々の中で、君の存在だけが僕の光だった。

      君の傍にいると安らぐ事が出来た…

      父にとっても母にとっても僕は、ただの出来のいい操り人形にしか過ぎなかった。

      それは分かっていた。」

ユリア  「キールお兄様…そんな…」

キール  「がっかりしたかい?(苦笑)僕は君の考えているような立派な人間じゃないんだ。

      そう…でもそれで良かったあの日までは…

      あの日君との結婚が決まって、僕はやっとローゼンフェルド家の当主として正式に

      その地位を譲り受けるはずだった…。でも…そんな時、父の遺言が見つかったんだ。

      内容は何だと思う?」

ユリア  「…(首を振る)」

キール  「それはね、カインに全財産を譲り、次期当主としての地位を与えるようにというものだった…。

      (突然笑い出す)…ふ…ははは…あはははは!!!笑えるだろう…

      ずっと次期当主になるためにどんな事でも我慢してきた…それだけが僕の存在理由だと…

      それなのに…今になってそんな事を…(しばらく俯いて拳を握り締める)

      …カインが憎かった僕から全てを奪っていくあいつが…

      殺したいほど憎かったんだ…!!」

ユリア  「…キールお兄様(辛そうにキールを見つめる)」

キール  「軽蔑したかい…?僕はこんなにも薄汚れているんだ…」

ユリア  「…キールお兄様…泣いているの…?(おずおずとキールの頬に触れる)」

キール  「…!?(自分が泣いている自覚がなかったが頬から涙が流れている)」

ユリア  「もう…何も言わないで(泣きそうになって)

      …辛かったのね…キールお兄様…そんな風に追いつめられるほど…今まで苦しかったのね…(同じように涙を零しながらキールを抱きしめる)

キール  「…ユリア…(キールもそのままユリアを抱きしめ返す)

      (しばらくそうした後、小さく呟く)…君が…君さえ…僕の傍にいてくれたら」

ユリア  「え…?」

キール  「君が僕を受け入れてくれるなら…カインにはもう手を出さないと誓う」

ユリア  「!!キールお兄様…」

キール  「ユリア…僕の…傍に居てくれ…(震える手でユリアの頬に触れ懇願するように見つめる)」

ユリア  「…キールお兄様」

キール  「ユリア…ユリア…(名前を呼びながらすがるように抱きしめる)

ユリア  「(しばらくぎゅっと瞳を閉じた後、微笑んで)
      …分かりました。幼い頃からずっと…キールお兄様は私の傍に居てくれた…今度は私がキールお兄様のお傍に…」

キール  「ユリア…愛してる…愛してる!」(きついほどユリアを抱きしめる)


【9】〜深夜、寝室。ユリアは眠れずにベットに座ってぼーっと天井を見上げている。 


ユリア  「…これで…いいんだわ…これが一番いい事なのよ…。

      キールお兄様も…カインも…これで幸せになれる…」

     
     (そう自分自身に言い聞かせるもののカインの事が頭に思い浮かぶ)

      ※カイン役の方はユリアと出会った頃(11歳)から少しずつ成長した感じで演じてください    
      
カイン  『お前…また泣いてるのか…?しょうがねーな、ほら…かせよ』(11歳)

     『…俺はさ…この家の厄介者なんだ…けど、お前は他の奴とは違うんだな…。』(16歳)

     『…あんな奴の所へなんか行くな…』(現在〜21歳)

ユリア  「…っ(涙が浮かんできて)…だめ…だめよ…
      
      もう…もうカインの事は忘れなくちゃいけないのに…どうしてまだカインの事が頭から離れないの…?

      どうしてこんなに今、カインに会いたいって思うの…!(顔を覆って泣く)」

カイン  「ユリア…」

     (ガタンとベランダの窓が開く音と共に自分を呼ぶ声がする。
      するとそこにはカインがベランダから忍び込んでいた)

ユリア  「カイン!?(驚いて目を見開く)」

カイン  「ユリア…無事か?」(心配そうに声を掛ける)

ユリア  「カイン…!(思わず駆け寄りたくなるのをぐっとこらえながら)

      何しに…きたの?」

カイン  「(様子がおかしいのに気付き)…お前を迎えに来た」

ユリア  「…どうして…私はあなたとは帰らないわ。だって私は…

      私の居るべき場所はここだもの…(泣きそうになるのを必死に堪えながら冷たく言い放つ)」

カイン  「!!…ユリア…記憶が戻ったのか…?」

ユリア  「ええ」

カイン  「…思い出したのなら、俺達を殺そうとしたのが、誰の差し金だったか分かってるのか…!」

ユリア  「…」

カイン  「あの男は俺に切りかかって来た時、恨むならキールを恨めって言ったんだぞ!!」

ユリア  「…(拳を握り締めて気持ちを抑え)分かってるわ…」

カイン  「だったらなぜ!!」

ユリア  「私は、キールお兄様と結婚するの…」

カイン  「!?」

ユリア  「だから…もう帰って…」(声が震えるのを抑えつつ背を向ける)

カイン  「どうしてだ…どうして…あんな事があったのに…お前はキールを選ぶのか…!」

ユリア  「帰って…!もう…二度と…私の前に現れないで!!」

カイン  「!!ユリア…どうして…どうしてだ!!お前だけは身分とかそんなもの関係なく…俺のことを見てくれると思ったのに…!!

      お前までキールを選ぶのか…!」

ユリア  「……っ」(ぎゅっと拳を握り締める)

カイン  「どうしてあいつなんだ…どうして… あいつには…あいつにだけは渡さない…

      渡さない!!」(近づいて来て、ユリアをベットに押し倒す)

ユリア  「きゃっ!」

カイン  「…無理やりにでも、全部俺のものにすれば…お前は俺のことを見てくれるのか…?」

ユリア  「!?…やっ…カイン痛いやめて!!いやっ!」(暴れる)

     SE:(ガシャーンと物が落ちる音)
     
     (物音に気付き、向かいの部屋に居たキールが部屋に入ってくる)

キール  「どうしたんだユリア…今の物音は…何かあったのか?

      !?…カイン、貴様!…ユリアから離れろ…(押し殺した声で)」

カイン  「…キール」(カイン、キールの姿を見て憎しみの表情に変わり、ゆっくりとユリアを離して剣を構える)

キール  「生きていたんだな…カイン」(冷たい瞳を向け、剣を抜く)

カイン  「ああ、期待に沿えずにすまないな…(口をゆがませて笑う)」

ユリア  「!!や、やめて」

キール  「なら…ここで死ねーー!!(剣を振り上げ切りかかる)」

カイン  「キールーーー!!」(憎らしげに叫んで応戦する)

キール  「(カインの振り上げた剣を受け止める)っ!お前には、ユリアは渡さない!!お前にはっ!!はぁあっ!(剣を払いのける)」

カイン  「くっ!(剣を払いのけられて)それをお前が言うのか!!お前がっ!!俺から全てを奪ったお前がぁっ!!(再び切りかかる)」

ユリア  「やめっ!二人共止めてー!!」

キール  「笑わせるな!!僕は何も手に入れてなんていない!!つっ!!(剣を受け止める)

      お前こそ…下賤な生まれの分際で! 父の愛情を独り占めした…っ疫病神め!!(剣を交差させたままカインと顔を対峙させて)

カイン  「っ!!くっ…!!(剣を交差させたまま。顔をお互い近づけて押し合いの攻防)
      
      だからって…お前は俺の母を殺した!!

      惨めに…野良猫のように無残に殺したんだーーっ!!(剣をなぎ払い再び向かっていく)」
      
キール  「ハッ…当然の報いだろう!」(笑って攻撃を避ける)

カイン  「(避けられ振り返り怒り心頭)貴様ぁあーー!俺は!!お前を許さない!!お前にはユリアを渡さないっ!!」

キール  「お前に何が分かる…!!お前にーーー!!!」(切り付ける)

カイン  「くっ…!!」(腕を切りつけられる)

ユリア  「!?カイン!!お願い!!もう、もうやめてぇーーー!!」」

カイン  「うっ…くそっ…」(腕からどくどくと血が流れる)

キール  「死ねぇえーー!!」(ひるんだ所に切りかかる)

ユリア  「やめてえぇーーー!!」(ユリア、カインを庇って飛び出す)

ユリア  「うっ!」(キールの剣がユリアの身体を刺してしまう)

カイン  「!!(目を見開く)」

キール  「ゆ、ユリア…!!」

カイン  「ユリア!!(倒れこむユリアを抱きとめて)…ゆ…ユリア…ユリア…しっかりしろ…!!」

ユリア  「……良かった…カイン…無事…?んっ…(苦しそうに表情を歪める。刺された腹部から血が溢れ出す)」

キール  「あ…あぁ…(ユリアを傷つけてしまった事に震えながら愕然として剣を落とす)」

ユリア  「…キールお兄様…ごめんなさい…約束したのに…私…ごめんなさい…(涙が溢れる)」

キール  「…ユリ…ア…君は… 君は…っ!」(苦しげに眉を寄せ拳を握り締める)

カイン  「ユリア…!……どうして…(掠れたような震える声で呟く)どうして…お前が…俺を庇うんだ…お前は…キールの事が」      

ユリア  「違う…(傷口から赤い血がどくどくと流れ落ちる)私…私は…」

カイン  「(傷口を見てはっとして)ユリア…もういい喋るな…!」

ユリア  「聞いて…(震える手でカインの頬に手をあてる)私は…あなたのことが…好き…なの…」

カイン  「(信じられないように首を振る)う、嘘…嘘だ…そんな事…お前は…キールの事を愛しているんじゃないのか…?

      さっきもお前はキールを選ぶって…それに…俺はお前の事をずっと騙して…っ」

ユリア  「本当よ…信じて…私やっと…分かったの…キールお兄様の事は、肉親のように慕ってた…

      優しくて…いつも傍に居てくれて…幼い時からずっと…憧れの人だった…

      でも、あなたは違う…どんなに傍に居たら駄目だって…心を閉ざそうとしても

      裏切られたのかもしれないって思った時も…

      …忘れられなかった…(涙を浮かべ苦しげに)……好き…なの…」

カイン  「そんな…そんな事…俺は…俺は…」

ユリア  「ごめんね……最後の最期にならないと本当の気持ちに気付けなかった…」
      
カイン  「ユリア…ユリア…どうしてこんな事に…まって…待ってくれ…俺を置いていかないでくれ…!!」

ユリア  「カイン…ごめんね、私…本当に馬鹿…だよね…今頃になってやっと本当の気持ちに気づくなんて…(苦しげに微笑む)」

カイン  「いい…もういい…もう分かったから…喋るな!!」

ユリア  「カイン…カイン…大好き… あいし…て…る…」(ユリア瞳を閉じ息絶える)

カイン  「ユリア…ユリ…ア? あ…あ…うあああああぁーー!(叫ぶ)」 


【間】〜しばらくユリアの亡骸を抱きしめたまま呆然としている


カイン  「ユリア…眠っちゃったのか…?

     (ユリアの亡骸を抱きながら)そっか…お前って昔から怖がりで…泣き虫で、いつも一人じゃ眠れないって言ってたよな…

     (冷たくなった頬をなでて)大丈夫だ…俺も一緒に居てやるから……約束だ…もうお前を一人にしないから…

      ユリア…愛してる…(カイン自分の胸に剣を付き立て、ユリアを抱きしめ息絶える)」



【エピローグ】


カイン  『欠け落ちなくしてしまった……君の記憶…想いのカケラ

      隠して…閉じ込めてしまおうと思った…でもその先にあったのは……残酷な現実』

ユリア  『ううん…違う…私は幸せよ…もうこれであなたと離れなくてすむんだもの』

カイン  『…ユリア…君は俺を許してくれるのか…?』

ユリア  『カイン…これからはずっと一緒よ』

カイン  『ああ…ユリア…もう俺はお前の手を離さない…』

ユリア  『約束よ…ずっと…ずっとね』

カイン  『ああ…約束だ…』


ユリア  『欠け落ちなくしてしまった……私の記憶…想いのカケラ

      探して…求めて…やっと手に入れた…私達だけの真実……』


【END】